お店をつくる人々 Peops

仕事も暮らしも「余白」を楽しみながらいまを生きる。
姉妹がみつけた本来の自分。

デュプレいしい / 石井 宏弥さん・石井 亜季さん

公開日:2026年7月9日

「お店には毎日、小さなドラマが生まれている」
Peops(ピープス)は、そのドラマの語り手を訪ね
情熱と想いの源泉をそっと掘り起こしてきました。

今回の舞台は、秋田市の洋菓子店 デュプレいしい さん。
12年前、わたしたちは石井宏弥さん・亜季さん姉妹を取材し、その記録を一冊のディスプレイブックにまとめました。
あれから時は流れ――。

当時は、お父さまがオーナーでスタッフは20人。
いまは姉妹を中心に、気心の知れた5人のプロたちで
“余白”を楽しみながらお店をまわしています。

あの一冊を手がかりに、12年で変わったこと、変わらないことを、もう一度めくり直してみることにしました。

取材にご協力いただいた人

左:亜季さん/右:宏弥さん

石井 宏弥さん石井 亜季さん
デュプレいしい
石井宏弥 1977年秋田生まれ。日本外国語専門学校在籍中の1996年母の逝去をきっかけに家業である洋菓子店を支えるため店舗運営に携わるようになりました。多くの方々からご指導ご支援をいただきながら経験を積み現在に至ります。
石井亜季 1979年秋田生まれ。菓子専門学校卒業後様々なアルバイトを経験。その後ご縁をいただき菓詩工房わたなべさんで多くを学び、2002年帰郷し姉と共に実家の洋菓子店に携わり現在に至ります。

12年前のディスプレイブックと、いま

左:2014年  /  右:2026年

外観は12年前の雰囲気が漂い、新緑のグリーンに囲まれた店先に立って懐かしい気持ちで、扉をそっと押し、ひと足中へ――。
そこには、”無作為”と”行き届いた整え”が程よく溶け合う空間が広がっていました。
壁は、かつてのナチュラルベージュから、淡いグレイッシュトーンへ。ドライフラワーや流木のオブジェに囲まれ、『デュプレいしい』らしいギフトと愛らしいお菓子がリズムよく並んでいました。

洗練されたグレイッシュトーンのいま


12年前のディスプレイブックを開きながら、対話がゆっくり始まります。
「あの頃といま。いちばん変わったことはなんですか?」
ページをめくる手を止め、宏弥さんは静かにこたえます。
ーー内側、でしょうか。
まっすぐにそう答えた瞳は、雲が払われたように澄んで見えました。

自分たちの内側の意識が大きく変化したという石井姉妹。

この頃は「売上がすべて」と肩に力を入れて、朝から深夜まで働き、休みの日も頭の中は店のことでいっぱいーー自分の気持ちを置き去りにしていることさえ、気づけない日々だったと、
少し懐かしむような様子で話してくれました。

コロナ禍に入る少し前、尊敬する女性パティシエの講師がこんな言葉を差し出しました。
「女性の身体は年齢とともに変わっていきます。だからこそ “これから、どう在りたいか” を考えてみてくださいね」その言葉に、はっと目が覚める心地がしたそうです。
この働き方では、身体も心ももたない。なにより自分たちの気持ちに”余白がない”

「わたしたちは本当はどうしたいーー?」

問いを抱えながら自分の内側に深く向き合うと、ふいに“畑”という言葉が浮かびます。
土に触れたい。季節の匂いを、自分の手で確かめたい。
気持ちは日に日にふくらみ、やがて姉妹は、畑仕事ができる場所を探しはじめました。