
“発酵で世界を幸せにする” ーー
和歌山からパリへ、たくあんが海を渡る。
正直に、まっすぐに「おいしい!」をつくり続ける昔ながらの漬物屋。
樽の味 代表取締役社長 / 細田 幸平さん
公開日:2026年5月14日
“発酵で世界を幸せに”ーーその最初のカタチ

どん底の蔵で灯した小さな願いを、私たちは“商品”という舟に乗せ、そっと世に漕ぎ出しました。
舟を前へ押し出してくれた三つの看板商品の物語をお届けします。
◎『昔ながらのたくあん』ーー値段を上げて、みんなの心を守る
経営が苦しい頃、主力のたくあんに中国産大根を使っていました。けれど「安心・安全な国産にこだわりたい」。そこで父は和歌山県美浜町の田渕さんに声をかけます。
「うちのたくあん用に大根をつくってもらえませんか」
農薬散布は一般の半分以下で青首大根を育てる、職人肌の農家さん。良い素材を、丁寧に、無添加でーーそして、それに見合った値をつける。
大根を育てる農家さん、漬ける職人、召し上がるお客さま。三者の心が守られました。


25年のお付き合いが続く和歌山県美浜町の田渕さん。
昔、町会議員もされていたという、何でも気さくに話せて頼りがいのあるお人柄です。


ー江戸豆知識ー
江戸ではたくあんは“二切れ”が縁起もの。
一切れは「人を斬れ」、三切れは「身を斬れ」(切腹)、四切れは「死」。
田渕さんが笑って教えてくれた、お侍さんの食卓の昔話です。
大根を自然の力で乾燥させ、もともとの重量の5割以下まで干すことにより、大根本来の甘み、うまみをぎゅっと凝縮することができる。
日本でこういった天日干しを行ってうまみを凝縮させる製法はたくあん全体の2割程度。樽の味はこの製法を守り続けています。

独特の酸味と自然の風味を最大限に引き出すために180日間以上樽の中で寝かして熟成と植物性乳酸菌による発酵を行います。



◎『漬けもん屋のぬか床』ーー捨てるはずの宝物
たくあんを引き上げた樽には、乳酸菌がたっぷり息づく熟成ぬかが残ります。長いあいだ私たちはそれを泣く泣く捨てていましたが、父のひと言。
「野菜を突っ込んでみたらどうなるやろ?」
さっそくキュウリを沈め、数時間後に樽を開けると、やさしい酸味がふわりと漂うーー。そう、宝物は足元に眠っていました。
「このおいしさを家庭にも届けたい!」
生ぬかを5割ブレンドし、常温流通にも耐える配合を探して父が試作を重ね、家庭で失敗なく漬かる『漬けもん屋のぬか床』が誕生。
台所に小さな発酵の灯をともしています。


◎『キムチ革命』ーー葛藤を越えた3年プロジェクト
「市販品の多くに添加物が入るなら、私たちが無添加でつくろう!」
常務を中心に試作を重ね、社内の反対と向き合いながら2度のブラッシュアップ。3年かけて、唐辛子の香りがふわっと立つまろやかな『キムチ革命』が完成しました。発売2年後、料理系インフルエンサーの投稿が火種となりSNSで拡散。『ヒルナンデス!』でも紹介され、樽の味にうれしい悲鳴が響きました。
このとき私たちは確信します。
『商品は、家族も社員もお客さまも一緒に幸せになれる道具だ』と。

美味しそうな写真が並び、豊富な品揃えがひと目でわかるの樽の味さんのトップページ
◎そして――ブランドの“顔”を磨く
「市販品の多くに添加物が入るなら、私たちが無添加でつくろう!」
三つの柱がそろったあと、ホームページを一新。女性デザイナーが温かな色彩とシズル感満点の写真で世界観を表現すると、顧客層は50~70代中心から40代女性へと広がり、平均購買単価も向上。
見せ方ひとつで思いは遠くまで届く――大切な学びでした。
素材を選び、手間を惜しまず、正しい値をつける。そうして生まれた商品たちは、樽の味に“希望”という香りを連れてきてくれました。「商品が整った。次に磨くのは、私たち自身の心と体。樽の味のほんとうの物語は、ここからです」。

細田社長がつぶやく、心と身体にやさしいお話

- 時代おくれの漬物屋ブログ
- https://ameblo.jp/hosodakouhei122/
- 昔ながらの食べ物には、長く受け継がれてきた理由があります。ぬか床も、沢庵も、梅干しも、甘酒もそうです。昔の人たちは、ただ保存のためだけじゃなく、日々を元気に過ごす知恵として、発酵や保存食を暮らしの中に取り入れてきました。うちは、そういう日本の食文化の良さを、今の暮らしの中でもちゃんと続けられる形で届けたいと思っています。手間ひまを全部お客様に求めるのではなく、こちらでできる工夫はしっかりして、なるべく取り入れやすい形で届ける。それも、ものづくりの大事な役目だと思っています。(時代おくれの漬物屋ブログより抜粋)

photo:
Sota Horii
text & edit:
Miwa Hirozawa
