
どんなときも笑顔を絶やさない
大きな愛でまわりを照らす、
優しさと厳しさの素顔③
菓匠FUKUROU 代表/和菓子職人 中山美奈さん
公開日:2025年12月19日
800年のくすの木が見守る、
包み紙に込めた家族への想い

田辺の街で店を開くと決心がついたとき、近所の法楽寺で樹齢800年を超える、くすの木の御神木に出会いました。
その力強い姿に、心が惹かれ、地元の神様に守られて、この街の皆さんに愛される店になりたい――
そう決意した中山さんは、その想いを看板商品のどら焼きの袋に宿しました。
親子のフクロウは、娘と自分の姿。娘と二人でこの土地で暮らす小さな物語「ふくろうのお八つ時」を綴りました。

どら焼きの袋には、こんな物語が描かれています。

ふくろうのお八つ時
田辺の街を長く見守る大きなくすの木の神様は、八〇〇歳。
おやつを背負ったフクロウが2匹。ある日その立派なくすの木に引っ越してきました。
「やあやあ、可愛い親子さん。僕にも美味しいおやつを分けとくれ」
「もちろん!」と色んな森から集めた材料で美味しいどら焼きをこしらえて、
「こりゃあたまげた」と神様大喜び。


その包みに込めた想いには、家族の記憶も重なっています。
修行中、初めて「最高だ」と思える焼き具合のどら焼きを作ることができたそうです。
ふんわり分厚く、焼き上がりは柔らかく、今まで食べたことがないような美味しいどら焼き。
そのどら焼きを、中山さんは真っ先に母のパートナーに届けました。
「人生で一番尊敬し、助けてもらった大好きな人」だと語ります。
「これはほんまに美味しい。これやったら成功する。このどら焼きでお店出すんやで」
そう背中を押してくれた言葉――それが、病であることも知らないまま、最後に交わした言葉となりました。
その方はその後、天国へと旅立たれました。
その言葉は中山さんの胸の中で何百回も繰り返され、仕事の意味となり、目標となり、励みとなり、夢となって、心を震え立たせ続けています。
18年間、その約束の言葉が、中山さんを前へ前へと走らせてきました。
「お母さんを幸せにするんやで」といつも言われていた中山さん。
母が誇りに思えるような職人になること。美味しいどら焼きをつくり、自分の店を持って親孝行をすること。
その夢は、家族への感謝と、この土地への敬意を込めて、ゆっくりと育まれていきました。
包み紙の物語は、単なるデザインではありません。
田辺の街と、法楽寺のくすの木、地元の神様、そして家族の記憶――
それらが一枚の紙で結ばれるように。お八つの時間が、誰かの笑顔と地域の物語をそっと紡ぎ直すように。
「地元の神様に守られて、この街のみなさんに愛される店になりますように」
包みを開く手の中で、小さな祈りが毎日、何度も確かめられています。

