お店をつくる人々 Peops

『変わらない笑顔のために変わり続けるルーヴ』
人々にとってかけがえのない場所を育み続ける野﨑社長の情熱

株式会社ルーヴ 代表取締役社長 野﨑 幸三 さん

公開日:2025年11月10日

「お店には毎日、小さなドラマが生まれている」
第3回目の「Peops(ピープス)」では、30年以上にわたりオリジナルウェディングケーキの文化を築き、その第一人者として業界を牽引してきた野﨑社長にお話を伺います。

年間1,500台ものウェディングケーキを手がけ、圧倒的な実績で新たなマーケットを切り拓いてきた菓子工房ルーヴさん。
そのトップとして、お客様の想いをカタチにし、想像を超える感動体験を生み出し続けている野﨑社長。
私たちの心を揺さぶる、その情熱や原動力は、一体どこから生まれてくるのでしょうか。

「変わらない笑顔のために、変わり続けるルーヴ」この言葉に込められた、その歩みと深遠な想いに迫ります。

取材にご協力いただいた人

野﨑 幸三 さん
株式会社ルーヴ 代表取締役社長
1979年香川大学卒業と同時に父親が病に伏し、実家の紳士服仕立て洋服店を継承。1981年菓子工房ルーヴ入社ドイツ菓子・パンの製造に携わりながら、商品開発や販路開拓に従事。全国に先駆けて、生のオリジナルウェディングケーキを展開。2015年「ルーヴ菓子創造研究所」を設立し、未来型スイーツの開発と事業化を邁進させる。特に、機能性をもったスイーツ(糖質制限・低カロリー)に着目し、地産地消をベースに多角的な展開を図る。2018年代表取締役社長に就任。

日常に散らばる“心が動く瞬間”

唯一無二のケーキで人々の心に寄り添う野﨑社長のもとへ、最近ひとつの特別な依頼が舞い込みました。

「小田和正さんのために、誕生日ケーキを作ってもらえますか?」

音楽界のレジェンド、小田和正さん。今年で78歳を迎えられ、最後のツアーとなるライブが、あなぶきアリーナ香川で開催されることに。
しかもライブ当日――9月20日は、奇しくも小田さんの誕生日でした。
“最初で最後”となるであろう記念すべきケーキづくりを託された野﨑社長は、その依頼に深い感慨を覚えたと語ります。

「このようなご依頼をいただけて、とても光栄です。ルーヴだからこそ届けられるケーキを、心を込めてお作りしました」

ギターを抱える小田さんを細部まで再現した、まさに特別な一台。
ライブ当日、届けられたケーキを前に満面の笑みを浮かべる小田さんの写真を拝見し、野﨑社長の胸も熱く震えたといいます。
「本当に感動しました。関係者席までご用意いただき、最後のライブを見届けることができたことにも、胸がいっぱいでした」

しかし、野﨑社長が語るのは、何もこうした特別な出来事ばかりではありません。
“心が動く瞬間”は、日々の営みの中にこそ溢れているのだと。
それはたとえば、こんな瞬間に訪れます。

・お客様から直接、感謝の言葉をいただけたとき。
・スタッフが壁を乗り越え、見違えるほど成長した姿を目にしたとき。
・新しい商品や新店オープンという困難な挑戦を、みんなで乗り越えたとき――。

そうした、ささやかながらも心震えるシーンの一つひとつが、野﨑社長の胸に深く刻まれています。

「感動は作為的に作ろうと思って生まれるものではありません。
大切なのは、いつも相手の気持ちになって、自然体の心遣いを積み重ねていくこと。
サプライズや演出よりも、日々のお客様やスタッフへの想いが、必ず感動につながると信じています」

ルーヴのケーキの向こう側には、まさに一人ひとりの“幸せ”を願う野﨑社長の温かい生き方と、揺るぎない想いが静かに、しかし確かに息づいているのです。

卒業しても帰ってこられる場所

「心が動く瞬間は日常のあちこちに溢れている」と語る野﨑社長。
今年、特に印象的だった出来事として心に深く刻まれたのが、「ルーヴを囲む会」でした。

今年1月、横浜から博多まで全国にいるOB総勢130名がルーヴに集い、
「ルーヴを囲む会…みんなありがとう…」をテーマにしたイベントが盛大に開催されました。

ルーヴから独立し自分のお店を持った方、菓子業界以外の新たな道に進んだ方、中には娘さんが成人されている方もーー
約50年の歴史の中で、一人ひとりがルーヴを支えてきた大切な人々です。
朝から晩まで途切れることなく懐かしい話に花が咲き、会場は笑顔と感謝に満ち溢れていました。

その会で用意されていたのは、野﨑社長へのサプライズ。
乾杯の直前、野﨑社長が最も尊敬する横浜・リリエンベルグの横溝シェフが、突然会場に登場します。
予期せぬ再会に、野﨑社長は「頭が真っ白になるほど衝撃的だった」と当時を振り返ります。

横溝シェフの乾杯の挨拶は、出席者全員の胸に深く響き、会場は感動に満ち溢れました。
卒業したOBの皆さんがそれぞれの道で活躍しながらも、こうして一堂に集まってくれること。
そしてOB会が「卒業したメンバーがいつでも帰ってこられる場所」として機能していることを、野﨑社長は「何よりうれしいこと」だと語ります。

さらに6月初旬には、横溝シェフを再び招き、「真心のレシピと笑顔の魔法」と題した特別講習会が開催されました。77歳を迎えられた横溝シェフによる7つのレシピの実演、そして素材に優しく触れるその手つきには、参加者全員が目を奪われます。
奥様との出会いを語るトークショーもあり、会は終始、穏やかな雰囲気に包まれました。

しかし、そのわずか同月23日、横溝シェフの息子さんから「父が脳梗塞で亡くなりました」と突然の訃報が届きます。
あまりに急な出来事に、野﨑社長も「しばらく言葉が出なかった」と、その時の衝撃を語ります。

特別講習会の様子は丸一日ビデオで記録されていました。野﨑社長は急いで45分間に編集し、ご家族へとお渡しします。
“最後の映像”には、感動にあふれる横溝シェフの姿と、和やかな時間がありのままに映し出されていました。

野﨑社長が込めたこの温かな心遣いは、ご家族だけでなく、集まったOBやスタッフの心にも深く響きました。

ルーヴが紡ぐ“つながり”の地域活動

地域貢献というと、時に特別なことのように捉えられがちですが、野﨑社長は「特別なことをしているつもりはありません」と話します。
大切なのは、できることを地道に続けること。その愚直な姿勢こそが、ルーヴの地域活動の揺るぎない原動力となっています。

その象徴的な活動の一つが、25年以上にわたり継続している「障がい者お菓子教室」です。また、小学校に出向き、専門知識や技術を伝える“出前講座”も毎年8回ほど開催。お菓子づくりの楽しさを学び、交流を深める時間となっています。

また、豊島の産業廃棄物問題から始まった「瀬戸内オリーブ基金」の活動にも、15年前から賛同しています。
この基金を知った際には、風光明媚な瀬戸内海の恩恵を受けている我々ルーヴが小さな一歩を歩み出そう。
「ぜひ参画したい」という強い思いが芽生え、スタッフとともに豊島へ出向くなど、若い世代にもこの産廃問題と自然を守る活動を広く知ってほしいと願います。
「瀬戸内の美しい緑を守り、増やす」ことを目的に、ささやかながら継続的な支援を重ねてきました。

さらに、3年前から始まった高松中央公園再整備事業では、公園の整備を民間事業者が担う「PARK-PFI」制度にルーヴが応募し、見事に選定されました。
2026年秋には、スイーツ&ベーカリーカフェ「PARK T LÖWE(パーク・ティー・ルーヴ)」をオープン予定。
公園リニューアルに向けて「スイーツ・パン、お飲み物、そしてスタッフのあたたかい接客を通じて、お客様が日々の喧騒から離れ、ゆったりと心穏やかな時間を過ごせる、そんな安らぎの空間を目指しています」という野﨑社長の深い願いが込められています。

創業時のベーカリーのルーツを生かし、懐かしさと新しさが融合した店舗スタイルに。
老朽化していた公園のトイレスペースもルーヴが提供することで、より快適に地域に寄り添った取り組みを今後も力強く推進していきます。

「公園への出店は、これからのルーヴにとって大きな変革です。
時代の流れとともに柔軟に変化しながらも、スイーツ業界をリードしていく情熱を持ち続け、何よりも人とのつながりを大切にしていきたい」と野﨑社長は語ります。

地域活動については「お店の宣伝ではなく、身の丈に合った細く長い継続が大切。
そして途中でやめないこと。地味でも長く続けることが、何より重要だと思います」と、穏やかながらも揺るぎない信念を語ってくれました。

なくてはならない存在に

「街のお菓子屋さん」として、ルーヴが目指す場所は明確です。
「特別な日だけでなく、日常に寄り添う『街のお菓子屋さん』であり続けたい。お客様にとって、“なくてはならない存在”になることが目標です」

そのためには、時代の変化とともに柔軟に形を変えながらも、創業当時から変わらない「お客様に最高の美味しさと喜び、そして感動を届けたい」という揺るぎない情熱と、
「人とのつながり」を何よりも大切にする姿勢が不可欠だと考えています。
野﨑社長は、そう温かく語ります。

野﨑社長にとって「信頼」とは、「日々の小さな約束を守り、真摯な姿勢で人と向き合うことの積み重ねだと思っています。
それはお客様や従業員との関係だけでなく、自分自身との約束でもあります」と言葉を続けます。

そして「豊かさ」とは、お金や物質的なものだけを指すのではありません。
「人との温かいつながりや、日々の仕事にやりがいを感じられる心の状態のことだと思います」
穏やかでありながら、その言葉の奥には確固たる哲学と、揺るぎない心の豊かさ、そして慈愛に満ちた安心感が感じられます。

『変わらない笑顔のために、変わり続けるルーヴ』

野﨑社長の生き方そのものが、「ルーヴ」というかけがえのない場所を育み、
これからも多くの人々の心に、温かい光と、確かな心のよりどころを届けていくことと感じました。

ご協力いただいたお店

菓子工房ルーヴ
https://lowe.co.jp/
店舗情報
空港通り店
Cafe die mahne/un

〒761-8082
香川県高松市鹿角町290-1
TEL:087-869-7878
グランメゾン・ルーヴ
〒760-0029
香川県高松市丸亀町7-16
丸亀町グリーン西館1F
TEL:087-811-7557

第28回GCC勉強会にご登壇いただきました

「新しいニーズを追随する商売ではなく
自ら作るマーケットの仕掛けはこうだ!」
菓子工房ルーヴは、創業以来、自社代表作を手間を惜しまず改良し続け、2024年に機能性表示食品を取得。健康志向スイーツからオーダーメイドのウェディングケーキ、クリエイティブな引菓子まで展開し、全国誌でも多数紹介されました。地元香川の素材を活かしながら“市場を自ら創る”経営を実践し、来春には高松・中央公園にスイーツ×ベーカリー×カフェの旗艦店「PARK T LÖWE(パーク・ティー・ルーヴ)」を開業予定です。時代の変化に対応する目線やスタッフが輝く店づくりのヒントをお伝えします。お客様の笑顔とスタッフの成長を何より大切にし、柔軟な発想で次代をリードする社風を築いています。
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