
“ありがとうね”が受け継がれる
幸せのかたち
アントルメ菓樹・三代目が歩み出す、
“新しい家族のバトン”
株式会社 松月堂ホールディングス
代表取締役 柴田 悠貴 さん
公開日:2025年10月10日

2015年――私たちはDisplay book vol.04で、熊本のアントルメ菓樹さんに出会いました。
あれから10年。熊本地震という大きな困難を乗り越えつつ、新たな船出の時を迎えています。
2022年、三代目・柴田悠貴さんが社長に就任し、多店舗展開や海外事業、オンラインショップの拡充、スタッフ一人ひとりへの新しい投資を進めてきました。
“父の味”を守りながら、時代に合わせて進化する。店そのものを“家族”のようにつなぐ、その挑戦の日々。
新しいアントルメ菓樹の歩みを、三代目・悠貴さんに伺います。
取材にご協力いただいた人

- 柴田 悠貴 さん
- 株式会社 松月堂ホールディングス 代表取締役
- 2015年アントルメ菓樹入社。2017年より経営に携わり始め、2019年から熊本の駅、空港、百貨店の拠点地に出店。2023年に海外事業会社、菓乃音(かのん)を立ち上げ、台湾に海外1号店をオープン。2025年、事業の拡大に伴い、企業再編を行いホールディングス化。再構築された新体制でコーポレートガバナンスの強化と、事業会社ごとに明確化されたビジョンによりさらなる成長と拡大を目指す。
事業承継という大きな転機

アントルメ菓樹の三代目、柴田悠貴さん。
二代目の父・博信会長は生粋のパティシエで、昔ながらの職人気質を祖父から受け継いでいました。
悠貴さんはアメリカの大学へ2年間転入し、その後MBAを勉強。語学やコミュニケーション力を磨きながら、広い世界で挑戦することを志してきました。帰国後は三年間パティシエとして修業。
「毎日バウムクーヘンやカステラをひたすら作る日々でした」と笑います。

「もし父と同じパティシエだったら、きっと“味”で勝負していたかもしれません。でも私は経営者としてバトンを受け取りました。視点が違うからこそ、できることがある――そう思っています。」
実は、2016年からの四年間は、何度も父とぶつかり合いながら、それでも一緒に未来をどうしていくか、本気で話し合った期間だったように思います。日本の人口減少時代に、どう“守りながら進む”かを考え続けてきました。

「お菓子の味は、今でも父にかないません。ケーキは絶対父のほうがうまいんですよ(笑)。お客様やスタッフも、そこは変わらなくていい、とみんなが思っています。父のレシピノートは何冊もあって、それを掛け合わせるだけで新しいお菓子が生まれる。無理にアレンジする必要がないんです。」
“美味しいお菓子は、すでにここにある”
――だから私は、父の作ったお菓子を世界に広げることが自分の役割だと考えています。

事業の柱を増やし、スタッフのキャリアや将来の道をひらくため、ホールディングス化を推進。
主力商品の製造工場と倉庫を拡大、10年後を見据えた、新しいアントルメ菓樹の土台づくりに挑戦しています。
人口減少時代の中で、一店舗主義から多店舗展開へと方針転換。駅や空港など人が集まる場所への出店や、オンラインショップの強化を進めてきました。4~5年前は、店舗売上の100分の1ほどしかなかったECも、2年前に専門チームを立ち上げ、SEOやページ編集、レビュー強化などの取り組みで急激に成長。ジェラートやゼリーなど、夏場に強い商品も主力となり、5年以内に本店の売上と同等、もしくはそれ以上を目標にしています。
海外展開も加速しています。2025年2月には、台湾で現地パートナーによる新店舗がオープン。
台湾はギフト文化が根付き、日本的なパッケージも喜ばれ、日本と同じ材料が手に入りやすいのも大きな魅力です。また、マレーシアではハラール認証を取得し、現地コンビニ「マイニュース・ドットコム」で半熟チーズケーキの販売がスタートしています。今後はカンボジア、フィリピン、ベトナム、ポーランドなど、グローバルな展開が続きます。
「和のテイストを活かした洋菓子は、海外でも人気です。大福や餅、抹茶、おにぎりやお弁当なども高く評価されています。実際、ポーランドでも抹茶アイテムで成功した日本人パートナーがいるんです。私たちも、その可能性を信じて、これからも挑戦し続けます。」
お店に立つ時はいつも普段着で店内を歩き、お客様にまぎれてディスプレイを手直ししたり、お客様のお声に耳をすましたり。そうすると良いことも悪いことも、お客様の本当の声が聞こえてきます。
「これ、ばりうまかったばい」「ちょっと値段、上がっとったねぇ」
本当の声はこれからの商品やお店のあり方を見直すための大切なメッセージだと捉えています。
フランチャイズ展開が待ち遠しい新星店舗ご紹介

- THE SON’S TALK
- https://sons-talk.com/
- 柴田悠貴社長とデザイナーの従兄弟二人で立ち上げた店舗。子が親に今日あったことを話すような「話したくなる」を持ち帰る。をコンセプトに、主要アイテムは生ドーナツ、ふろらんたんラスク、クロワッサン、オリジナルブレンドティー。今後は海外でフランチャイズ展開ができる設計にしている。
- 店舗情報
- 〒860-0047
熊本県熊本市西区春日3丁目15-30
肥後よかモン市場 THE SONS’TALK
営業時間:9:00~20:00(年中無休)
TEL:096-327-8027
永く続く会社のために、一番大切にしたいこと

私がいちばん大切にしたいのは、「どこにも無理をしないで続けていくこと。」
スタッフも、お取引先さんも、家族も、自分も、会社も。どこか一つだけが頑張りすぎたり、無理をかけると、いつか歪みや疲れが生まれます――そう感じています。
会社は結局“人”だと、改めて実感しています。信頼できる仲間がいるからこそ、お互いに力を引き出し合えるし、その輪が少しずつ広がっていく。みんなが自分らしく、のびのびといられる場所を作っていきたい。それが私の役目だと思っています。
「人を大切に」は簡単だけれど、実際にその場所を築くには時間と覚悟が求められます。
だからこそ、私は人への投資や、働きやすい環境づくりにはこだわり続けていきたいんです。
これから特に力を入れていきたいのが、スタッフの幸せについて。「幸せデザイン・サーベイ」という取り組みで、会社全体の幸福度を見える化し、本質的に豊かな職場環境を目指していきます。
みんなが無理せず、心地よく働ける。そんな“無理のない世界”を、アントルメ菓樹のみんなと一緒に、少しずつ育てていくこと――それが私のいちばんの幸せです。
信頼とは”人類愛”のようなもの

私が思う“信頼”とは、ただ約束を守ることだけではありません。
「この人と一緒に歩めば、きっと前に進める」
――そう信じることができる、光のような存在であること。
時にはまっすぐ信じすぎて、少し傷つくこともあるかもしれません。それでもやっぱり、人と向き合い、人が好きで、手を差し伸べずにはいられない。誰かのためにと願う気持ちは、きっと巡り巡って自分にも返ってくる。そう信じて、歩んできました。
根っこにあるのは、初代の私にとって祖父から教わった「ありがとうね」の言葉。スタッフ、取引業者さん、周りの人みんなに感謝の気持ちを持って接していた、その姿です。


“信頼”とはヒューマニティー。
人と人がつながる「人類愛」のようなものかもしれません。
まずは自分の心のコップに水を注ぎ、幸せを満たすこと。そのしずくが、家族や仲間、取引先、お客様にもそっと降り注いでいく。この先も、光を分かち合い、信じ合うことで生まれる本当の“幸せ”をアントルメ菓樹、そしてスタッフみんなで、これからも紡いでいきたいと思います。
ご協力いただいたお店

- アントルメ菓樹 健軍本店
- https://www.kaju-main.com/
- 店舗情報
- 〒861-2106
熊本県熊本市東区東野1丁目5-5
TEL:096-368-2800
営業時間:10:00~18:00
店休日:1月1日・12月26日








